牛のこころ、人知らず

日曜日, 10月 30, 2022

乳房炎対策を考える

 乳房炎は、めんどくさい。

乳房炎になると搾った乳は廃棄することになるが、牛のエサを食べさせない訳にはいかないから飼料代はかかるけど収入はゼロということなってしまう。

マイナスばかりでいいことは1つも起こらない。

乳房炎になる原因については、専門家による研究により色々とあるが決定的な要因ははっきりしないというのが多いので、牛舎の中では考え込んでしまう。

乳房内(乳槽)では乳が生産されているが乳房内にあるうちには基本腐らない。

血液と同じで血液も血管内にあるうちには腐らないがいったん血管から出てしまうと固まる(凝固)してしまう。血液が細菌感染してしまうと敗血症になってしまい命の危険になってしまう怖い病気である。

乳も乳槽内では抗菌性物質(ラクトフェリン、ラクトオキシダーゼなど)により細菌繁殖が抑えられているので増殖することはないが、この抗菌性物質が減少してくると細菌が増殖することになり、炎症が発生しやすくなってしまう。

この状況が乳房炎は発症した状態であるが、難しいのは抗菌性物質が減少する要因が何であるかである。

1つ考えられるのは、下痢状態である。下痢便をしている時の乳を舐めるを通常の乳とは全く異なる味になっている。とってもまずいのである。こうなっていると乳は”死んだ乳”となっており細菌繁殖が活発になり炎症が発生してしまう。

この過程での乳は、すべてが”死んだ乳”ではなく、最初の乳は”死んだ乳”、途中は”生きた乳”、最後は”死んだ乳”という状況になり、これがだんだん進むとすべての乳が”死んだ乳”になってしまう。そのために乳房炎の全頭検査を牛舎で行うと多く牛が潜在性タイプの乳房炎が発見されやすい。すなわち最初の乳を検査するために”死んだ乳”が出てしまい陽性反応が出てしまうのである。

下痢便状態は、牛とっては人が思っていよりも大きなストレスがかかっていることになる。

黒毛和牛の繁殖農家を巡回すると、分娩した子牛が虚弱な事例が多い。これは乳牛の乾乳期と異なるが分娩後に子牛に授乳させるためと繁殖のために濃厚飼料の増し飼いを行うことが要因の1つである。

牛の場合胎児の増体量が分娩前に大きくなるなるために消化器官が圧迫されて(特に第1胃:ルーメン)摂取量が低下してしまう。そこで濃厚飼料の増し飼いをすると粗飼料(繊維質)の摂取量が低下してしまう。そのために繊維不足により軟便や下痢便になりやすくなる。

その対策としては、良質粗飼料給与をするということが教科書には書いてあるが、良質粗飼料の定義が書いてあるものを見たことはない。ここでは良質粗飼料とはを考えていると長くなるので別な機会にするとして、分娩前に給与する粗飼料は、「良く食べること」と繊維質が「硬い」ことが必要となる。

しかしそのような粗飼料がない場合には、「どうしましょうか?」となります。その時には、糞性状が硬くなるまでしか「濃厚飼料の給与」が出来ないということになります。

糞性状に応じた飼料給与を考える必要があるということです。

下痢便状態で分娩すると「子牛が虚弱」、「初乳が薄い(濃度が)」、「子牛が取り込む糞由来微生物が悪い菌になる」という3重苦になります。そのために子牛が虚弱で下痢や風邪を引きやすく発育が遅れることになります。(下図参照)

もし乳牛でも分娩前に軟便や下痢便であれば「子牛が虚弱」、「初乳が薄く」、「取り込む常在菌が悪い」の3重苦なります。ホルスタインの子牛価格が極端に安くなっている現状では和牛受精卵移植やF1を生産する方向にありますが、子牛の疾病が多くなってしまいます。

当然、乳房内での抗菌性物質が少ないので乳房炎罹患率が高くなります。分娩後に乳房炎が発生しやすい牛舎では、分娩前の糞性状をチェックしてみる必要があります。