牛のこころ、人知らず

日曜日, 11月 06, 2022

乳房炎とストレス

 ”死んだ乳”でまずい乳になると細菌感染が拡大する兆候の1つになりますが、その乳房に異常な状態になる要因として下痢便を挙げました。

下痢になる要因は、繊維分の摂取量が減少して消化分解の速い濃厚飼料の割合が多くなると起こりやすくなりますが、分娩前にこの現象に注意を払っている農家さんが少ないことも問題です。

また下痢便になっているからその対処方法がわからないということがあります。教科書的には分娩前には良質粗飼料を給与すること、分娩後に給与する飼料の給与を始めること、栄養を十分に与える(特にタンパク質を)といったことになります。

どうも農家さんの潜在的に栄養を十分に与えることが重要であるという意識が強いことも影響していると思われます。これは、飼料計算のデーターを信じて乳生産や繁殖管理には栄養バランスが大事であるといったことが要因です。

先日、養豚のコンサルをされている方と話をしする機会がありました。そこで話題になったことの1つに豚舎で豚の状態を見ることができない人(飼料メーカーの担当者など)が

ほとんどで実際に起こっていることがわからないので自分が勧める商材を使わせることが多くなっていると話されていました。牛舎においてもまったく同様ですね。

乾乳期が重要であるとどの教科書にも書いてありますが、乾乳期の牛の状態(ボディコンデションだけでなく)がどのようになっているかはほとんどありません。

下痢は、人の場合では体に力が入らなくなり食欲も減退してしまいます。牛はしやべらないのですが、分娩前に下痢便になっていると想像以上にストレスを受けていることになります。

乾乳中で乳房炎に罹患する危険率が高いのは、乾乳直後と分娩前に時期ですが、乾乳直後は乳房に残る残乳が問題です。最近は、乳量が30㎏以上で乾乳するケースが増えており高泌乳牛ほど苦労しているようです。無乾乳が一番手っ取り早い方法ですが、意外とこれを嫌っている農家さんが多いことに驚きました。そこで友人が取り扱っている泌乳ホルモンであるプロラクチンを阻害する成分を含んだ商材があるので困っている農家さんには紹介しています。これは液体で乾乳時に1回飲ませるものです。24時間で結構乳房が萎んで今まで乾乳すると鳴いていた牛が鳴かなくなったそうです。

分娩前については、漏乳が問題です。漏乳は、すべての乳頭から漏れるわけではないのですが問題は漏乳していない乳頭が乳房炎感染しやくなっています。漏乳している乳頭は、流れ出ているので乳槽に溜まらないので細菌繁殖しにくいのですが、同じ牛なので乳頭の緩さは同じですので漏れていない乳頭が細菌感染の危険性が高まります。乳牛の改良で乳量が増加すると搾乳時間を短縮するために乳頭穴が大きくなっているのではないかと考えています。

この漏乳対策は、分娩前であっても漏乳がひどいと手っ取り早く搾乳することです。これだけでも乳房炎の危険率が低下します。また給与している飼料の内容を再検討が必要ですが、フリーバーンやフリーストールでのTMRによる乾乳管理では難しいと思われます。

そう言ってもTMR給与であれば、別途乾草の給与を勧めています。乾草は、TMRに入れないで24時間いつでも牛が食べられるようにすることです。具体的には牛舎構造や飼槽の状況、給与できる粗飼料の質などを見て考える必要があります。

この分娩前で粗飼料摂取量を高めることができる飼料を給与して改善している事例もあります。これは、主にビタミンEと脂肪による効果ですが、ビタミンEの原料がトコトリエノールが主体で通常のビタミンEに使われているトコフェノールとは異なったものです。トコトリエノールはスーパービタミンEと呼ばれてトコフェノールよりも40~50倍の抗酸化力があります。また脂肪の成分は植物ステロールを含んでおりこの成分は微生物の活性を高める効果があるので粗飼料摂取が上がります。

乳房炎になった場合に行う対策の1つとして、乳房から”ブツ”が出たらビタミンAD3Eの液剤を飲ませます。但し飲ませる量は、最低でも1,000万IUを投与します。ひどい場合には2,000万IUになります。通常液体のビタミンAD3Eは1ml当たり2万5千IUなので1,000万IUは400ml、2000万IUは800mlになります。(かなりの量ですよ)

このだけ飲ませるとかなり反応がよく現れます。これは、ビタミンAは、肝臓に90%程度蓄積されているのですが肝細胞が少なくなると貯蔵する容器が小さくなると欠乏しやすくなります。肝細胞が低下することは、飼料管理の問題点が主な要因です。

その結果として何が起こっているいるかというと抗酸化物質が少なくなり体の酸化作用が進んでしまい生産性が維持できなくなり廃用になってしまいます。

下の写真は、食肉市場で見られる乳牛の枝肉ですが、表面が泡のようになっています。これだけひどい状態でよく生きていたと思われるような状態です。

このような管理状態では、ストレスから乳房炎になるのも妙な意味で”納得”します。