牛のこころ、人知らず

月曜日, 5月 27, 2024

飼料の乾物摂取量を高めること

 今月になって久しぶりに北海道に行きました。

目的は乳牛へ商材の試験依頼が主な要件でした。商材は、築野食品工業㈱が開発した飼料用ライストリエノール混合飼料です。これは、こめ油生成過程で発生する副産物でビタミンEを豊富に含むっすべての家畜(鶏、豚、牛)に利用できるものです。

これまでは、豚や肉用牛への販売はされてきていますが、乳牛への給与についてはまだ手を付けていないので今回泌乳牛への給与試験の依頼で大学や試験機関に行きました。

この飼料用ライストリエノール混合飼料は、ビタミンEの1種であるトリエノールを豊富に含んでいる特徴的なものです。

ビタミンEは、天然ではα(アルファ)、β(ベータ)、γ(ガンマ)、δ(デルタ)の4種類があり、トコフェノールとトコトリエノールのそれぞれ4種類あるので、合計で8種類の化合物の総称となります。


ビタミンEは、トコフェノールが有名で飼料向けではほとんどトコフェノールが使われています。トコフェノールは、化学合成でも作られており、添加物などの表示にdl-トコフェノールと書かれていれば化学合成物です。

トコトリエノールは、天然由来しかなく家畜向けにほとんど利用されていませんでした。トコトリエノールは、トコフェノールよりも40‐50倍の抗酸化力があり、「スーパービタミンE」と呼ばれています。

また合成化合物と天然由来では、1.5倍の抗酸化があるといわれています。(厚生労働省より)

肉用牛では、当初は肥育牛主体で利用されていました。これは、この飼料用ライストリエノールの抗酸化力を利用して生米ぬかを混合した肥育用配合飼料を設計したことが始まりでした。

肥育用配合飼料に生米ぬかを使うと酸化したり、変敗することから品質保持の面から通常利用できません。生米ぬかは、北海道で一部使われていますが都府県ではほとんどありません。この配合飼料を開発するにあたり、実際に飼料用ライストリエノールを混合した製品を1か月(7‐8月の期間)飼料タンクで保存試験を行ったところ全く変敗しない保存が出来て牛への給与も問題なくできました。

この保存試験の結果は、一般的な常識から考えると正直かなり驚きました。

生米ぬかは、農家でも配合飼料に毎日混合して給与することが一般的な方法なので配合飼料に使えることは革新的なことと思っています。

この生米ぬかを肥育用配合飼料に使うことは、黒毛和牛での脂肪質を改善することに貢献できることです。

配合飼料で粗脂肪含量を高める原料は限られています。一般的はトウモロコシや大豆になりますが、その他にコーンジャムやホミニフェード、油粕類(搾油ごの残渣物)があります。

トウモロコシは、胚芽に脂肪を含んでいますがその割合は3.8%で、高脂肪を含む品種としてハイオイルコーンでは、7.1%、最近利用されている中脂肪トウモロコシは5.8%になります。大豆は、約20%程度で、脱脂大豆粕1.9%、きなこ20%、とうふ粕11.6%程度です。

肥育用配合飼料は、粗たんぱく質(CP)は11ー13%なので大豆はタンパク質割合が大きくなってしまうので多くは使えません。そこで価格面からもトウモロコシ主体になってしまいます。トウモロコシはでんぷん質も多いのでカロリー面からも使いやすい原料です。

ちなみにコーンジャムは、トウモロコシ胚芽そのもので脂肪分は45%程度含まれているが脂肪分が多いことから”火を噴く”(発火する)ことで製造工場での管理が難しいことと輸入するときに保険が掛けれないことから利用は難しい原料です。

その他、搾油した粕類もありますが、搾油後は脂肪分は多くないものが多いです。

なぜこのように脂肪原料を述べるかといえば、最近相談が多くなっているのが北海道で行われる和牛全共対策です。和牛全共で肥育牛の脂肪質を評価する採点方式なってオレイン酸を中心とした1価不飽和脂肪酸含量を高めることが求められています。

和牛肉での脂肪質は、遺伝的改良により脂肪交雑割合が高まり含まれている脂肪量が枝肉中50%を超えていることも要因です。すなわち脂肪が多くなったから脂肪が硬いと口溶けが悪く”美味しくない”と評価されるようになったためです。

脂肪の味は、最近の研究から舌で感受することができることがわかっており研究が進んでいます。そのために余計脂肪質が重要になっています。

その脂肪質については、別の機会にします。

元に戻ると飼料用ライストリエノール混合飼料は、抗酸化だけでなく乾物摂取量を高めることも認められています。これは、含まれている成分がルーメン微生物を活性化することでルーメン分解性が高まるために起こるものです。

泌乳牛においては栄養充足よりも乾物摂取量が優先しますが、粗飼料の品質状況によって摂取量が変動します。その変動は、粗飼料を食べないことなので当然反芻・咀嚼が減少することになります。反芻・咀嚼が減少すると唾液分泌が減るのでルーメンの恒常性で重要なpHのコントロールが効かなくなります。ルーメンpHのコントロールができなくなるといろいろな疾病の要因となります。

この飼料用ライストリエノール混合飼料により乾物摂取量を高める(安定させる)ことで乳牛の健康性を維持できる(もちろん粗飼料:繊維分)ことです。

粗飼料は、自家生産でも購入でも常に同じ品質は維持できないためにその変動幅を少なくすることが必要です。

乳牛の研究では、高品質な粗飼料生産と配合飼料による栄養管理が主体ですが、現在の飼料価格の高止まり、円高による輸入粗飼料の高騰の状況から高コストな生産から低コスト生産で乳量を維持できる技術が必要だと思っています。

例えば、稲わら(稲ホールクロップ:WCSではなく)を泌乳牛に給与する技術です。

一昔前に渡辺高俊さんの2本立て給与など稲わら利用する技術を現代版にする必要があります。そのために飼料用ライストリエノール混合飼料をうまく利用する技術(方法)を進めていくための乳牛給与試験を研究機関と進めていきたいと考えています。