牛のこころ、人知らず

月曜日, 1月 12, 2009

続・最近の肉牛の話題

前回の続きですが、イナワラがらみの話題をもう1つあります。
それは、イナワラといってもいろいろあるという話です。
イナワラといえば、どれもみな同じだという思われがちですが、かなり品物によって差があります。
この差は、前回のβ―カロチンもそうですが、今回は早生と晩生の問題です。
実は、イナワラを食べさせてもおもったよりも繊維分が少ない場合があるということです。
イナワラは、栄養分よりも繊維分を補給するために利用しているのですが、早生品種のイネでは繊維分が少ないことがあります。
これは、米作りをしているとわかるのですが、米作りでは、米とワラが大体同じだけ取れるのです。そのために、早生は米の収量が少ないのでワラも少なくなります。
一方、晩生品種のイネでは、米の収量も多いためにワラもたくさん取れます。
この話だけでは、ワラの収量の問題だけですが、早生と晩生の違いは含まれる繊維量も違うのです。
コシヒカリはいい例ですが、早生は比較的倒伏に弱いことが知られています。これは、繊維分の中にリグニンが少ないためで、晩生はリグニンが多く倒伏に強い傾向があります。
なぜこのようなことが分かってきたかといえば、最近の黒毛和牛は非常に大型化してきて枝肉重量が600kgを越えるものも少なくありません。もちろんホルスタインや交雑種(F1)よりも大きくなっています。(食肉市場に行くとよくわかります)
そのために、牛サイドからはたくさんのエサ(配合飼料)を食べる必要があります。そうすると農家は配合飼料をたくさん食べさせるのですが、イナワラは、ほとんどの農家で今まで通りの量です。
そうすると、ルーメンのpHが下がった状態(アシドーシス)が続いてしまい、人でいう「胃潰瘍」のような状態になってルーメン内壁が白くなり、柔毛の機能がなくなり、ひどくなるとルーメンが硬くなりひび割れを起こします。
こうなると肥育どこではなく、生命維持の危機になります。
ここまでひどくならなくても、繊維不足ではルーメンの厚みがなくなり、柔毛が細かいものから爪くらのものに変わってしまい、肥育がうまくいかなくなってしまします。
ルーメンの厚みがなくなると、美味しい「ミノ」を食べることが出来ません。
その防止のためには、丈夫なルーメンを維持しなければならないのですが、早生のイナワラでは繊維分が少ないのでたくさん食べさせないといけませんが、イナワラをたくさん食べると配合飼料の量が減るので牛の肥りが悪くなります。
イナワラに繊維分があれば、このような状況を防ぐことができるのですが、イナワラをみな同じと考えているとちょっとした落とし穴があります。
また、子牛段階で粗飼料を十分に与えられていない子牛も大きさだけでなくルーメンの厚みも不足しているので、十分な注意が必要です。
ちなみに、全共でチャンピオン経験のある茨城の長島さんと話したときには、「イナワラは絶対晩生でないと駄目だ!」と言っていました。